多機能型電動車いす “Q300Mミニ” で積極的な外出を(慈恵医大 高尾准教授)

2025/02/13

概要

東京慈恵会医科大学・准教授の高尾洋之さんは、脳血管障害の治療などに取り組む一方、ICT 医療の推進による臨床効果・医療経済効果などの研究を行ない、医師として研究者として活躍されていました。

2018 年に重症ギラン・バレー症候群(※1)に罹患、障害を持たれて、現在自宅療養中ですが、アクセシビリティ技術を使用しながらその普及のた
めの仕事もされています。

そんな高尾さんの行動範囲を広げているのが、多機能型電動車いすです。

※1:末梢神経の障害によって、脱力、痺れ、痛みなどの症状を起こす病気。

詳細

突然襲った病魔

2018年8月14日朝、いつも通り目覚めてベッドから立ち上がろうとしたとき、左足が動かず転んでしまいました。
初めは「寝違えて痺れただけ」と思いましたが、その後も左足は動かず、救急車で病院に運ばれました。

MRI検査で異常は認められませんでしたが、状態が改善しなかったため、経過観察のため入院しました。
その夜、気分が悪くなりナースコールを押した後の記憶はありません。重症化して意識を失っていました。

目が覚めたのは4か月後で、四肢麻痺となり人工呼吸器を装着していました。
言葉を発することもできず、自分の意志で動かせるのは目だけ。誰とも意思疎通ができませんでした。

医者は患者の気持ちがなかなか分からないと言われますが、自身が患者になり、それが身に染みて分かりました。

電動車いすで移動が可能に

入院後2 年を経て、身体状況は少しずつ良くなり、車いすに乗れるようになりました。
バッテリーなどが取り付けられた簡易型電動車いすをレンタルし、練習を重ね、様々な動きができるようになりました。

病院内で走行練習をしていたとき、「マリオカート(※2)みたいですね。」と話しかけられたことをきっかけに、その車いすを「マリオカート」と命名しました。手動の車いすを利用する人は多くいましたが、電動車いすの利用は病棟内でも初めての出来事で、セラピストにとっても印象的だったようです。

その後、マリオカートで外出するようになると、段差や道路の勾配、点字ブロック、横断歩道など、走行が不便なところがたくさんありました。
それでも何度もチャレンジしていくうちに、操作に慣れ、だいぶ乗りこなせるようになりました。

2021年6月に退院し、自宅の近くを散歩したり、職場訪問したりと、電動車いすで元の環境での生活を行うことにも徐々に慣れていきました。

※2:マリオはゲームキャラクターの名前。レーシングカートに乗って多彩なコースで速さを競う。

多機能型車いすで行動範囲がさらに広がる

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マリオカートのレンタル期間が終了するタイミングで、多機能型電動車いす「Q300M ミニ」を紹介してもらいました。

ティルト・リクライニング機能や、フットサポートのエレベーティング機能などが付いているため、安楽な姿勢を保つことができ、個人に合わせたカスタマイズも可能、さらにコンパクト型で自宅内での走行も可能ということで、デモンストレーションを経て、購入を決めました。

補装具費支給制度(障害者総合支援法に基づく自立支援のための制度)を利用したため、自己負担を軽減することができました。

私は手を引く動作が困難なため、判定の際の走行テストでは、バック運転や、機能の切替操作などで苦戦しました。そこで、自分の手に合ったコの字型のレバーを3D プリンターで自作しました。

「Q300M ミニ」購入後、介助者に手伝ってもらう場面もありますが、練習を重ねることで自由に移動することができるようになっていき、行動範囲が広がりました。

さまざまな課題を克服しながら、大学、交流会、フェスティバル、仕事など、外出を楽しんでいます。

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自らの経験から

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障害を持ったことで、多くの気付きがありました。その一つが、「コミュニケーションツールの活用」でした。

iPhone やiPad には、身体機能を補完するためのアクセシビリティ機能(※3)が装備されています。入院中に意思伝達ができなかった経験から、「この機能を普及させたい」という目標が見え、誰にでも分かるように原稿を書き始めました。声を文字に起こしてもらい、2 年かけて2 冊の書籍を出版しました。

また、私は上肢の力がまだ弱く、スイッチ類を押すことができません。海外ではBluetoothを活用した携帯電話やタブレットとの連動で、ティルト・リクライニングやフットサポートの操作が可能になっています。

今後、このような機能が日本でも利用できるようになると、重度の障害を持つ方々にとっての利便性が向上すると思います。

今後は、障害者だからこそできることを模索しながら、デジタル技術やアクセシビリティの普及に努めることで、困っている人々に少しでも支援を提供し、誰一人取り残されない社会の実現に貢献することを目指して取り組んでいきたいと考えています。

※3:様々な利用者が情報やサービスにアクセスしやすくする機能。例えば、音声を使うことで視覚障害がある人でも操作ができる、など。

高尾 洋之(たかお・ひろゆき)

東京慈恵会医科大学附属病院や厚生労働省、内閣官房での勤務等を経て、2015 年4月より東京慈恵会医科大学・准教授(脳神経外科学講座/先端医療情報技術研究部)、同大学ICT(情報通信技術)推進プロジェクトリーダーに。2021年からは、デジタル庁アクセシビリティ担当プロジェクトマネージャーも務める。

著書:デジタル医療現在の実力と未来(日経BP)、iPad があなたの生活をより良くする(日経BP)

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導入商品

お客様に関する情報

使用者 個人
性別 男性
疾病 ギラン・バレー症候群
利用した制度 補装具費支給制度

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