好評の「障害者支援施設 清瀬療護園 見学会 ― 天井走行リフトを導入した障害者施設」第7回に参加しました。その様子をご紹介します。
清瀬療護園は、昭和51年4月に開設された、都内で2番目の重度身体障害者療護施設です。2017年に、常にご利用者の人権が尊重され、創意工夫をもってご利用者の生活支援介護を行うため、建物を建て直し、ご利用者が移乗を必要とされるスペースには77台の天井走行リフトを設置されました。
移乗用リフトの設置は昭和50年代後半に始まり、建て替え前には54機になっていました。しかしながら、全てのリフトが稼働していたわけではありませんでした。使用は職員の裁量や利用者の判断に委ねられており、パワー介護が横行していました。
建て替えを節目に、「リフトを設置しながら使わない」という失敗を乗り越え、質の高い介護の提供と介護職員の負担の軽減を実現しています。
施設は、職員と利用者の程よい距離感と自由さが感じられました。地域交流スペースには地域の人たちの利用が見られ理念の「地域に開かれた施設」が実践されているように感じました。
見学会日時:2019年11月13日(水)
参加者:東京都、神奈川県、茨木県、大阪府、静岡県の障害者支援施設、特別養護老人ホーム等
1.清瀬療護園様について
昭和51年4月、都内で2番目の重度身体障害者療護施設を、都立民営で東京都清瀬市に開所しました。その後、昭和50年代後半には、施設の共用部のトイレに初めて移乗用リフトを設置しました。まだ、福祉の世界に移乗用のリフトが出始めたばかりのころでした。平成24年には、東京都より民間委譲を受けて自主運営を開始。平成29年4月、老朽化に伴い建て替えを行い、現在は新しい施設で運営しています。 建物は鉄筋コンクリート3階建て、ユニット方式を採用しています。68床が全室個室で、施設入所が60名、生活介護が70名、短期入所ショートステイは8床です。そのうち1床は緊急一時保護用となっています。看護師が24時間在席しており、診療所のドクターは月~金曜日の時間勤務です。その他、浴室4か所、活動室、リハビリ室、スヌーズレン室、さらに一般の方にも来訪してもらえる本格的な喫茶店などを併設しています。
2.リフト普及への取り組み(講師 生活管理課 課長 成田 圭様)
リフトを設置しながら使わないという失敗
施設は、二十数年前から徐々にリフトの導入を進めてきました。平成29年に建て替える時点で、すでに54機の移乗用リフトがありました。しかし、当時は全てのリフトが稼働していたわけではありません。使用は職員の裁量や利用者の判断に委ねられており、「抱えない介護を全施設で目指そう」との取り組みがなかったため、結果的にパワー介護が横行していました。
抱えない介護を目指す機運の高まり
建て替えの節目を迎えたことで、抱えない介護を目指す機運が一気に高まり、移乗を行うであろう全てのエリアでリフトを導入することになりました。建て替え後の新施設には全エリアに77機のリフトを導入しました。スリングシートの種類とサイズは、18名の「リフトインストラクター」「リフトリーダー」を中心に選定を行いました。
旧施設の失敗を検証
建て替える前はリフトを54機も導入したのでハード面の設備は十分に充実していましたが、ソフト面の取り組みが全くなされていませんでした。稼働率を上げるにはどのような取り組みを行えばよいかを検討した結果、リフトが活用されるか否かを大きく左右するのは、ソフト面の取り組みであるとの結論に至りました。
リフト普及に必要な要素
その1 施設長や法人全体の理解
設置にはそれなりの予算が必要になるため、管理者側の理解が大きく左右します。施設における腰痛などの発生状況や、腰痛を理由に離職した職員の把握が必要です。また、利用者の離床状況、生活の質の向上を常に目指す目標が必要になります。
その2 導入後の取組み(ソフト面の取り組み)がきちんと行われること
リフト導入後のポイントは次の3つです。①導入後すぐに施設長や管理者がリフトを積極的に使用するよう指示すること、②導入後すぐに介護職員にリフトの必要性と正しい操作方法をレクチャーすること、③確実に使われているかを検証することです。(使われない原因と対応。利用者との相互信頼)
職員はリフトの正しい操作方法と必要性を理解するため、公益財団法人 テクノエイド協会の「リフトリーダー」、JASPA介護リフト普及協会の「リフトインストラクター」の資格を取得しました。 その職員を中心に創設したのが「施設内リフト検定」です。この施設内リフト検定で全介護職員がリフトの必要性を理解することにより、リフトを使用した抱えない介護の実現が進みました。抱えない介護は、安心・安全であるとともに、離床の機会を増やすことで利用者の生活の幅が広がり、QOLの向上にもつながります。
移乗用リフト使用の重要性と効果として判ったこと
移乗用リフトの重要性は大きく分けて2つ。 1つは、リフトを使用することで、利用者の無理な姿勢や力みを軽減した質の高い介護を提供できることです。正しい操作方法により、転落事故による骨折などの重大事故のリスクを回避できます。そして、車いすに着座するときもリフトを使用することにより、容易によい姿勢で乗せることができます。
もう1つは介護職員の負担の軽減です。リフト導入後、当施設では着実に職員の腰痛による中長期の病休者と離職が減っています。より長く働ける環境は、採用時のセールスポイントとして有効だと考えています。長期ビジョンでとらえれば、安定した施設運営にもつながります。 つまり、雇用の状況が安定すれば、施設としても積極的かつ新たな取り組みが可能になり、利用者の生活の幅も広がっていくのです。移乗用のリフトは単に移乗用のツールというだけではなく、利用者のQOLの向上ならびに施設全体の質の向上のためになくてはならないものだと確信しています。
3.施設のリフト見学
入浴施設
脱衣室から浴室やトイレへ。天井リフトは移乗・移動がとてもスムーズでリフトは床を専有していません。
方向転換も自在でスムーズな曲線天井レール(脱衣室)
脱衣室から個浴室へ、乗換え不要アクセス。レールが通過しても扉を閉められる構造。
居室の天井走行リフト
居室全室にリフトを設置しているとのこと。居室を面移動できるルームカバーリング方式の採用で、ベッド移乗やトイレへ移動などの室内の移動が容易です。ベッドの配置変更なども行えます。リフトのサポートで排泄姿勢も安定です。移動介助自体は片手の軽い力で可能です。
共用設備への天井走行リフト
4.天井リフトの体験
5.施設内の様子
施設の雰囲気は、自由で活気がありました。職員さんも利用者さんもストレスを持っているようには感じませんでした。
多目的スペースでは、近所の子供たちが息を切らして駆け込んできました。下校時の居場所になっているようです。子育ての悩みを相談しあえるママ仲間に出会える場所とも書いてあります。
コンセプト「地域に開かれた施設」が実現しているように思えました。
建物は曲面と採光が各所にあり、落ち着きと開放感があります。
写真左:大きなガラス曲面に囲まれたパティオ(中庭)。
写真上:2階の喫茶室に繋がるデッキテラス。開放感と自然豊かな武蔵野の森に囲まれます。
喫茶「ほのぼの」 「子育て世代応援Caféテラス」のコンセプト。オープン利用ができパンが美味しいとのことでした。
手作り工芸品の販売コーナー
災害時のエレベータが使えない時の避難路。2階から地階への広いスロープとなっています。
個浴の「ひのき風呂」は人気とのこと
参考情報
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