この記事は、月刊福祉介護テクノプラス2021年1月号「特集 手動型スタンディングリフト」(日本工業出版)に投稿し掲載されたものです。
前傾型スタンディングリフト「ささえ手」を説明するにあたり加筆修正し、また、文脈上同月号の「提言・巻頭言」の一部を引用させていただき掲載いたします。
手動型スタンディングリフトを特集するにあたって(提言・巻頭言より一部抜粋・引用)
福祉技術研究所株式会社
代表取締役 市川 洌
立位移乗では①立ち上がれる、②立位を維持できる、③回転(踏み換え)できる、④静かに座れる、の4段階の動作が必要です。これらがすべて自立ないしは軽い介助でできれば問題ありませんが、どこかに重い介助が必要になればわが国では基本的に人力を利用して立位をとらせ、移乗介助しようとします。しかし、力仕事で人が人を立ち上がらせ、移乗介助することは介助者の腰痛などの障害、利用者が苦痛を感じるなどの弊害が生じる可能性が高くなります。
移乗動作は障害の変化に応じて利用する福祉用具を変更していかなければならず、多様な手段が準備されていなければならないということに気が付きました(図1)。
手動型スタンディングリフトを利用してみると、思ったより利用可能な方々が多く、安全で、容易な移乗介助に有効な用具だと思われます、在宅で利用する場合は施設で利用するときよりは制約が多くなると思いますが、施設ではトイレでの車いすから便座へ移乗介助や通常のベッドと車いす間の移乗介助など種々の場面で有効に利用できるのではないかと考えています。
(出典 月刊福祉介護テクノプラス 2021年1月号)
特集 手動型スタンディングリフトより
スタンディングリフトの活用で移乗介助が変わる!
アビリティーズ・ケアネット株式会社
水橋 修
介護現場では介助者自身より利用者の身体が大きい、または重く、立位を取らせられない方、骨や関節が弱く、無理に抱きかかえたり、引き起こしたりすると骨折や脱臼のリスクがある方にリフトを活用するケースが増えています。
一方で介助により立位姿勢を取らせることができても膝折れがしてしまい、自分では立位姿勢を維持できない方、介助により立位姿勢を維持できても、足を踏み換えての方向転換ができない方に対して、リフトを使わずに車いすやトイレへの介助がまだまだ多く行われています。
介助時間の短縮、リハビリになる、立位維持が自立、尊厳の保持、といったように介助者、利用者双方あるいはその家族の思惑から、リフトを使わず無理に抱き起こす(立たせる)介助が行なわれているケースが少なくありません。
特にトイレ介助は、介助者が二人で利用者を車いすから抱き起し、衣服を降ろし便器に座らせ、排泄が終わるとまた抱き起し、着衣を上げ、車いすに座らせることが一工程で、その作業を日に5回、6回と繰り返しています。その結果、介助者の腰や、膝、背中、腕、首など身体のいたるところが痛み、腰痛は慢性化してしまいます。介助される側も強く抱きしめられることにより、関節や皮膚のトラブル、ひどい場合圧迫骨折を負うこともあると聞きます。
写真1 ささえ手 |
図1「ささえ手」各部の名称 |
前傾型スタンディングリフトの「ささえ手」(写真1、図1)は、在宅に於いては介助技術がない、老々介護でも安全に安心して移乗介助が行えるように、介護施設では特に「排泄はトイレでしたい」という利用者の尊厳の保持、介助者の排泄ケアの負担を軽減するために開発、製品化されました。ベッドから車いす(あるいは椅子)、車いすからトイレ、その逆と移乗が可能になります。
利用者は「ささえ手」の胸、脇、膝のサポートで、ご自身の脚で立ち上がり、体幹を前傾させた姿勢をとります。胸腹部で体重を支持した姿勢は保持されますので、介助者の2本の腕による圧迫は受けません。介助者は一人でも衣服(下半身)の着脱ができるようになり、下半身の清拭や排泄ケアの労力が軽減されます。
抱き起こす際のリスクや負担の軽減ができ、利用者と介助者双方にとって安全に、安心してお使いいただけます。操作時に利用者と介助は密着する必要がなく、顔を見合わせ、会話ができ、様子の確認も行えます。
起立と着座はテコの原理を利用した操作です。ガス圧で動作するダンパーを利用しており女性でも容易に操作できます。さらに大小のツインキャスターを6か所に配置し、平らな床面での移動・旋回性にも優れており、力に頼ることなく誰もが操作しやすいよう設計されたリフトです。ガス圧で動作するダンパーを採用したことで、充電トラブルや電子部品の故障はありません。
「ささえ手」の利用対象者は、端座位がとれ、ある程度膝や股関節の曲げ伸ばしができ、床面に足底を着けられる方です(写真2)。
スリングシートを必要とする介護リフトとは違い、利用者は常に床面(ささえ手ベース部)に足底が接した状態のため、吊り上げによる振り子の現象は起きません。「ささえ手」が不意に移動することが無いように、移動・旋回の時以外は、キャスターのロックをかけて使用してください。
「ささえ手」は介護ベッドに近づけられるようベース部は高さ6㎝に設計してあります(図2)。利用者の足がベース部の足載せ部に届かない場合は、座位位置を前方へ移動して載せてください。
図3 膝あてクッションを膝に合わせる(左が膝が90°で正しい。右が誤使用例)
膝当てクッションに利用者の膝を合わせます。膝が90度になるように足位置を調整します(図3)。また、座面が低いと立ち上がりにくいため、ハイロ―機能のあるベッドなどの場合は高さ調節を行います。脇当てクッションを両脇に差し込み、できるだけ下方向に押し下げます。利用者の体に接するクッション部には滑りにくい素材を採用しており、動作時に身体がずれ難い設計です。ずれないことで胸腹部や腋下などに負担がかかること防ぎます(図4)
胸当てクッションに胸を密着させます。密着できず隙間が開く、または近すぎて苦しい場合は、胸当てクッションの位置を調節します。5段階に長さを調節できる仕様です(図5)。利用者の手は、利用者用グリップを握るか、エプロンの上においてもらいます(図6)。
介助者は操作ハンドルを握り、昇降ブレーキ解除ペダルをつま先で押して解除し、操作ハンドルを手前に引くと、ガス圧で動作するダンパーにより、利用者は膝を支点に臀部が上がり、同時に体幹を前傾させ胸腹部で体重を支持した姿勢がとれます。ガスダンパーは任意の位置で止めることできますので、適切な位置で姿勢を保持し、下半身の衣服の着脱やケアを行うのに最適です(図4)。
キャスターのロックを解除し方向転換を行い、位置を決め再度キャスターのロックをかけてから、再びダンパーを操作して着座させることができます。体重と重力により、利用者の体は着座面に向かって下降しますが、ハンドル操作で速度調節ができ、ゆっくりと安全に着座させることができます。
ささえ手
安全で使いやすい「ささえ手」をもっと多くの方に使いたいご要望に応え、本体発売後に開発、商品化されたオプションがあります。利用者の胸を「ささえ手」の胸当てクッションに密着させることが難しかった利用者にも、安心して「ささえ手」を利用いただけるよう設計しています。
7031-00 移乗リフト ささえ手
●寸法/外寸:(ベース部)幅40×長さ76×高さ6㎝、ハンドル部高さ:89〜120㎝ ●自重/34㎏ ●最大荷重/90㎏ ●昇降/ガスダンパー併用
ささえ手専用補助ベルト
円背などで胸当てクッションに接することが難しい方、小柄で脇当てクッションから抜けてしまう方、座位が安定せず、後方に倒れる恐れがある方などに使用し、利用者の胸を胸当てクッションに密着させる目的のオプションです(図7)。
7031-01 ささえ手専用補助ベルト
●素材:ポリエステル、高反発ウレタンフォーム
ささえ手専用スリングシート
骨盤が後傾している、あるいは円背姿勢で「ささえ手」本体に近づけられない方、「ささえ手」専用補助ベルトでは不安な方向けの専用スリングシートです(図8)。利用者の胸が胸当てクッションに近づけられない場合に掛け位置を調節し、体を支える目的のオプションです。利用者を支え上げた状態で下半身の衣服の着脱を行う場合は、下肢側のストラップの片方ずつ交互にずらして行います。
7031-02 ささえ手専用スリングシート
●素材:ポリエステル、ポリプロピレン
介護現場では、リフトに関心は持たれるものの、対象者が少ない、時間がかかって人力のみで介助した方が早い、機器によっては技術の習得が煩わしいと様々な声を聞きますが、多くの介助者が腰痛を患っていることも事実です。
移乗介助の方法は利用者の身体状況をアセスメントし、介助技術で残存機能を引き出しながら(利用者の協力を得ながら)行えるのか?リフトを活用すべきか、介助者、利用者双方が負うリスクや負担はないか?などを考慮しながら判断すべきではないでしょうか?また、リフトは利用対象者の人数、かかる時間で活用を判断するものではなく、利用者ごとに身体状況に合った機種を検討すべきではないでしょうか。
「ささえ手」は介助者、利用者双方に、負担が少なく立位姿勢(前傾立位)への誘導、立位姿勢(前傾立位)の維持ができ、安全に着座させられる前傾型ステンディングリフトです。活用の目的、必要な場面を考慮し、安全、安心、負担のない介助のために活用ください。
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