可能性への挑戦 アビリティーズ奨学制度を創設

2006年09月15日

伊東 弘泰
特定非営利活動法人日本アビリティーズ協会 会長
早稲田大学人間科学部客員教授

 日本アビリティーズ協会は1966(昭和41)年に創立、今年40周年を迎えました。これを記念し、「アビリティーズ奨学制度」(Abilities Soholarship)を創設することになりました。

 心身に障害ある人々は、いまなお社会で対等に活躍できる機会を失っています。障害があるために、十分な教育を受けるチャンスを得られずに、社会に出ても、適性や能力を生かせる仕事に恵まれず、生活の基盤さえも確保できない人たちがたくさんいます。

 私は1歳のとき、ポリオにかかりました。最初は両脚が麻痺状態でした。母の祈りと看病によって、左脚は奇跡的に回復しました。しかし右脚はいまなお枯れ枝のように細く短く、重たい、補装具なしには自力歩行はできません。
 多くの障害ある人たちがそうであったように、私は小学校に入学の際に、危うく就学免除の処置を受けそうになりました。
 そして、都立高校に入学の際には、もっと深刻な場面に出会いました。筆記試験を通ったあと、入学審査の職員会議では、「体育の実技のできない生徒を入学許可させるわけにはいかない」と、古手の体育教師の強い主張で、職員会議の空気は、入学不許可に傾いていたそうです。多くの教師たちからはとくに発言もなかったからです。
しかし、最後に別の、K先生.が立ち上がり、「体育の実技ができないからということで、高校教育の機会を奪うということはあってはならない」との趣旨の熱弁をふるわれたそうです。それで職員会議の空気がすっかり変わり、私は入学を許されたのです。この話は卒業後数年たって知らされました。
 実はその先生の患子さんが私とほぼ同じ年代で、同じようにポリオによる障害があったということものちに聞きました。K先生は、きっと私と息子さんのことをダブって考えていたに違いありません。耐え切れず、教育のあるべき「正論」を語ったに違いありません。
 心身に障害のある人たちには、このような人生の岐路がいくつもあり、それで将来の道がまったく異なる結果となります。私はこの時、たまたま、勇気あるすばらしいK先生の発言で救われました。良い方に出会えば救われ、そうでなければ不遇をかこつことになるのでは、余りにも無念であります。
 また私の場合、母が将来を心配し、教育について殊のほか熱心でした。貧しい家計の中で教育を常に優先して考えてくれました。
わが国の障害児教育が本格化して、すでに半世紀の歴史です。草創の頃、教育現場には情熱と使命感を持ったすばらしい、優秀な教育者がたくさんおられ、力強い想いを受けました。障害児教育は、その後も改革・改善が順次行われてきました。しかし、振り返ってみると、どれほどの人が、それぞれの能力を発揮し、あるいは社会でリーダーとして活躍する状況になったでしょうか。

 心身に障害のある人たち、その障害を幾分、軽減することはできても、取り除くことが不可能な場合が殆どです。心身がそうした状況であってもなお、一流の仕事や研究、何らかの事業や活動、祉会を変革していくリーダーを、障害ある人たちの中からも育成していきたいと念願しています。
 私は昨秋、オックスフォード大学日本事務所のデヴィッド・モリス博士の仲介で、イギリスの同大学本部を訪問し、日本から重度の障害のある人を留学生として受け入れていただくことの相談をしました。
 11世紀に創設された同大学の校舎の多くは歴史的な建造物ですが、障害ある学生のために必要に応じて、次々に改修していることを確認しました。また海外から多くの障害学生が留学しており、その人たちからも体験を聞いてきました。大学の責任ある教授たちから、障害があろうとなかろうと、対等に受け入れることのアグリーメントをいただきました。
 現実に同大学では障害ある学生たちが大学での勉強や研究ができるように適切な配慮をしており、障害のない人たちと何の差別もなく、学生生活を送っていることが確認できました。

 アビリティーズの奨学金は、オックスフォード大学に留学する重度の障害のある学生に支給されます。奨学金申請をするためには、本人がオックスフォード大学に出願し、大学側から入学の許可を得ることが必要となります。その後、当協会内に設置する奨学生選考委員会の審査を経て採用が決定されます。条件や金額は、該当者の諸事情を総合的に勘案し、留学期間中の学費及び生活費の一部を、原則的に最大4年間まで支給します。
 資金はNPO日本アビリティーズ協会が広く基金を呼びかけるほか、アビリティーズ・ケアネット株式会社が資金拠出に連動します。
 同社は、特定の福祉用具を「奨学基金賛助アイテム」としてあらかじめ設定し、それをお客様にも周知し、理解いただきます。その福祉用具を販売するつど、一定金額を基金としてNPO法人の管理する口座に拠出します。今年10月より開始されます。
 また、福祉用具をはじめ福祉サービス業界の各社に対しても、この奨学金制度の基金の拠出に参加することを呼びかけていきます。
下記に掲載のとおり、第1号の基金としてマレーシアのゼネコン企業から、並びに群馬県の萩原文子さん、音楽家で東京音楽大学の高橋啓三教授、小川勝也参議院議員からこの趣旨に賛同いただき、ご厚志をいただいています。
 イギリスヘの留学を実現するには、なんと言っても英語の語学力を高めなければなりません。今秋オープンするアビリティーズのARC横浜(アーク横浜)では、陣容のある人もない人も対象とする、英語教育を予定しています。国際的に通用する英語教育、国際人の育成を子供の頃から行ないます。
 たとえどんなに重度の障害があっても、生活環境を整え、望むならば高いレベルの教育を受けられることを実現し、対等に社会で活躍できるような力を育てていきたいのであります。
 学問の領域で、あるいは実業界で、政治や法律の世界で、そのほかさまざまな分野で、国際的に通用するリーダーを育てることにより、障害福祉の問題もまた確実に変わっていくに違いない、そのためにささやかな力をアビリティーズは注いでいきます。

皆様のご支援、ご協力をお願いいたします。

■アビリティーズ奨学制度への寄付金一覧 (敬称略)
寄付年度氏名金額住所
平成18年黄 克仁(Rich Focus Group社長)90000円マレーシア
-小川勝也10000円北海道
-萩原文子100000円前橋市
-高橋啓三200000円東京都


奨学制度の詳細について、ならびに奨学制度へのご協力は当協会事務局まで
TEL:03-5388-7501





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