私が考える「働き方改革」~夢のまた夢

2016年12月14日

下記は、マイケアプラン研究会発行の My Care Plan News 第171号に掲載された記事です。

著者 小國英夫氏のご好意により、転載させていただきました。


マイケアプラン研究会 代表 小國 英夫  


 今、政府はしきりに「働き方改革」を推進しようとしている。そこには次のような言葉が躍っている。(参考:9月27日の第1回「働き方改革実現会議」での安倍総理の発言)

  • 長時間(時間外)労働をなくそう
  • 同一労働同一賃金を実現して短時間労働者の待遇を改善しよう
  • 非正規労働という言葉(実態)をなくそう
  • 労働生産性をあげて労働者の賃金を引き上げよう
  • ワーク・ライフ・バランスを推進して誰もが働きやすい社会を創ろう
  • 病気療養、子育て、介護と両立する働き方を実現しよう
  • ロボット、ビッグデータ、AI技術等の活用で働き方を変えよう

 これらの言葉一つひとつに反対すべき理由はない。それどころか大いに推進して貰いたいことばかりである。しかし何となく眉唾のように思えるのはどうしてであろうか。

 独断と偏見を許して貰えるなら、私は「現代日本の企業社会には倫理観が欠如している」と言いたい。日本を代表するような大企業における各種の偽装、粉飾決算、無責任体制、手数料依存体質等々はあきれるばかりである。企業は「利益最大化原理」のみを行動規範としているように思える。いや問題は企業ばかりではない。福祉、医療、教育等のヒューマンサービス、それに行政や議会もまたしかりである。

 このように倫理観が欠如している企業に本気で働き方改革を行う覚悟があるのか、換言すれば本気で消費者や労働者を大事にする気があるのか、ということである。企業の社会的責任が言われて久しいが、その自覚がない企業に働き方改革は土台無理である。営利・非営利に関係なく、人を雇用し、商品を提供する営みは社会的営みである。従って社会的責任があるのは当然である。

 働き方を改革するには人生における、また社会における「労働や職業」また「産業や企業」の意義、価値、責任等に関するシッカリとした考え方(理念、哲学)がなければならない。そうした土台のないままに働き方改革に取り組んでも大きな成果は期待できない。

 ところで私も実は数年前からの働き方改革提唱者の一人である。真の地域福祉を実現するには、真の産業福祉が車の両輪とならなければならないと考えている。地域福祉は市民・住民の主体的な課題であり、責任である。しかし長時間労働や長時間通勤を強いられている勤労市民にそうした地域福祉の主体となれる条件はない。従って雇用者である企業は勤労市民が地域福祉の主体となれるよう、労働条件や労働環境を整備する責任がある。私はそれを産業福祉の基本的課題だと思っている。

 私も600人の職員の雇用主である。しかも社会福祉事業を本業としている。社会福祉の根本が地域福祉だとするならば、雇用主として600人の職員が自ら居住する地域社会において地域福祉の主体となりうるよう、条件や環境を整備する責任がある。しかし、残念ながらその責任は果たせていない。

 法人として、事業(仕事)として地域に取り組むことで免罪されると、どこかで考えてきたふしがある。しかし、それは誤魔化しである。600人は職員である前に生活者であり、市民・住民である。家族を構成し、地域社会を構成している。しかし、果たしてそこにおける責任を果たせるよう、職場として、雇用主として条件や環境を整備しているわけではない。

 私が理事長をしている社会福祉法人健光園では、1日8時間、週40時間、週休2日制という極一般的な労働条件であるが、これを1日12時間(長日勤、長夜勤)、週36時間、週休4日制に改革したいと思っている。年間約50週として週休4日であれば1年に200日の休日があることになる。これを自分自身のため、家族のため、地域社会のために有効に使うことができれば家族や地域社会のありようは大きく改善されると思うがどうであろうか。

 長日勤や長夜勤は労働強化そのものではないか、と思われがちであるが、それは工夫次第だと思っている。ご利用者の生活のリズムやゆったりとした時間の流れに寄り添って仕事をするには8時間労働より適していると考えている。また、ご家族や地域の人々等との交流にも適しているはずである。フォーマルケアとインフォーマルケアのより良い関係もそうした中から生まれてくるはずである。要するに働き方の改革はケアの質の向上にもつながっていくのである。

 健光園が掲げている理念は生涯地域居住であるが、その実現のためには先ず健光園自身が進んで上記のような目標を掲げて働き方改革に取り組まなければならないと思う。そうすることで職員は真の社会福祉実践を行うことができると考えている。諸賢のご批判やご指導を期待する次第である。

 (2016年10月 7日発行 My Care Plan News 第171号より)



マイケアプラン研究会 フォーラム開催のお知らせ

 

小國英夫氏が代表を努めるマイケアプラン研究会が、2017年 2月 4日(土)京都でフォーラムを開催します。

介護サービスの新制度「新総合事業」について、考えます。
ご都合がよろしければ、ぜひお越しください。

※ フォーラムについて、詳しくはこちらのページをご覧ください。

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