共生社会へこれからが本番だ
障害者差別解消法が4月1日、いよいよ施行された。まず、国、都道府県、市町村については、この法律に基づき障害を理由とする差別は禁止され、差別を解消するための合理的配慮をすることが「義務」となった。
私たちが本格的な運動を開始して以来、法律成立まで12年半の時間を要した。障害者に対する政治的、社会的配慮は「弱きもの」、あるいは「不具者」に対する同情、慈善、救済を理念として対応されてきた。差別解消法は、「障害者も同じ国民として、同様に基本的人権を有し、その権利を行使できる」状況を用意すべきことを明確にした。
振り返ってみれば、2001年12月、日本アビリティーズ協会ほか全国レベルの12の障害者団体が、「障害者差別禁止法を実現する全国ネットワーク」(通称、JDA 全国ネットワーク)を結成して法律制定運動を開始したのが本格的な運動の始まりであった。JD、JDF、DPI等の障害者団体の連合体も相呼応するように運動を展開した。
2007年に国連の障害者権利条約に日本政府も署名した。その批准のためにも障害者差別を禁止する法律制定を急ぐ必要があった。2009年9月に鳩山由紀夫内閣が成立、JDA全国ネットワークが3項目の提言書を2009年11月24日、総理官邸で呈上した。2週間後、障害者制度改革が閣議決定され、総理を本部長、全閣僚を委員とする障害者制度改革推進本部が設置された。
2010年11月、内閣府に障害者差別禁止部会が設置され、法律制定に向けた検討が開始された。憲法学者、棟居快行・阪大教授が部会長、日本弁護士連合会の竹下義樹氏と私が副部会長に任命された。委員には法曹界の方々も多く任命された。25回の部会、延べ100時間の検討を経て2012年9月国務大臣に法律制定に向けた報告書を提出。その後、政権は変わったが、2013年5月衆議院、6月参議院で障害者差別解消法が全会一致で成立した。そして、今年4月の施行までにさらに3年近くを経過した。
この法律には、今のところ明確でないことが多くある。なにが差別か、合理的配慮とは、過重な負担とはなにか、これら明確にしていかねばならないことがまだまだ多い。社会全体がめざすべき方向性は明確に示された。「障害者に関することは、障害者を抜きにして決めない」という国連の権利条約制定の過程でのスローガンは、世界の共通「原則」になりつつある。
「自治体の対応が遅れている」といわれているが、国から自治体に様々な方針や通知がなされるのに時間を要したという事情があった。平成29年度には、殆どの自治体が本格的な取組みに入ることが期待される。
そんな状況の中で、いち早く、具体的に自治体職員の研修、勉強会に取り組んでいるところもある。
東京都世田谷区では今年3月28日に、「いよいよ施行!障害者差別解消法とこれからの世田谷区」と題し、職員や区民に呼びかけて施行直前講演会を開催、保坂展人区長自ら登壇、ご挨拶され区の方針を述べられた。
武蔵野市は5月8日、連休最後の日曜日に「障害のある人もない人も共に生きる地域社会をめざして」と題し、市民を対象とした講演会を開催、邑上守正市長が冒頭挨拶から最後まで参加された。自治体では、渋谷区、栃木市、熊谷市なども同様な企画の準備が進んでいると聞く。
ボランティア団体の東京・小金井市のインクル小金井の会は、「差別解消法成立までの経緯と小金井市条例化に向けて」を開催したが、西岡真一郎市長が一参加者として熱心に私の講演を聴いてくださっていた。
民間では日産労連が、グループ組合関係幹部を招集しての福祉活動セミナーで7月27日に、宗教関係では曹洞宗宗務庁が大本山永平寺にて寺族中央集会人権学習で差別解消法をテーマのひとつに取り上げ、全国から関係者を集めて9月8日開催した。
世界でもっとも急速に、高齢化率が高まっている日本。高齢者も含めて、どんな障害のある人も、住み慣れたまちに住み続けられる地域づくりを実現するために、この障害者差別解消法は、将来大きなルール、原点になる。国連の障害者権利条約と差別解消法をセットにして社会改革を進めることで、これまで差別の中で機会を逸してきた人々はもちろんのこと、だれもが大きな生きる勇気を得ることを実現しなければならない
一般社団法人 障害者の差別の禁止・解消を推進する全国ネットワーク 会長
伊東 弘泰