NPO法人日本アビリティーズ協会理事
アビリティーズ・ケアネット(株)執行役員
松尾 敬徳
当アビリティーズ・ニュース(2015.11.17発行メールマガジン)において「いっそう危うくなった介護保険制度」と題し、2年後の改定について記述いたしましたが、安倍政権の社会保障全体における縮小政策が現実化してまいりました。
介護保険サービスに係るすべての事業者、そして介護者を抱える家族、また、すべての国民は今政府・与党が行おうとしている社会保障改革に目を向け、その行方をしっかり把握することが重要となってきています。
政府は昨年12月7日の「経済財政諮問会議」で、財政の健全化に向けて進めていく改革の工程表の案を提示し、介護保険の関連では、いわゆる「骨太方針2015」で打ち出した軽度者への給付縮小や自己負担増を盛り込んでおり、2016年度中に具体的な内容・方針を明確にする予定です。そのうえで、2017年の通常国会に必要な法案を提出し、2018年度から実行に踏み切る計画を立てています。これを受けて、厚生労働省は今年2月にも社会保障審議会・介護保険部会を再開し詳しい議論を開始する考えです。
政府は工程表を昨年末までに正式決定し、安倍首相は諮問会議で、「この会議において歳出改革の進捗管理をしていただく。しっかりと具体化し、実行する」と表明しています。
軽度者(要介護2以下を指す)への給付縮小は、訪問介護の生活援助や福祉用具貸与、住宅改修などがターゲットとなっており、利用者の自己負担増については、現行で相対的に所得が高い一部の高齢者に限っている2割負担の対象者を、どこまで拡大するかが焦点となっています。財務省はこれまで、訪問介護の生活援助や福祉用具貸与をはじめとして、要介護2以下の給付の範囲を大幅に縮小する、65歳以上の自己負担は原則として2割にする、 などを求めてきました。しかし、政府は与党内の慎重論にも配慮して踏み込んだ中身には言及していない状況であり、今年夏に行われる参院選をふまえて業界の反応や世論の動向も見極めつつ、参院選以降に詳細を提案する見通しです。
この財務省意見に対し現段階における考えとして昨年12月9日厚生労働省は、福祉用具貸与の対象種目の一部を購入対象とすることや、軽度者への貸与の見直しなどを検討、住宅改修の実施状況の見える化を行い、優良な事例の公表などを検討。また要介護1・2の通所介護における生活援助サービスについては実態把握のうえ個別のサービスごとに検討したいと公表しました。
いずれにせよ、介護保険給付は要介護2以下の上述したサービスを縮小しようとする方向性が明確となっているわけですが、このことがどれだけ在宅介護の状況を悪化させるのか。そして、軽度者の生活援助サービスをカットし、本来その自立を補完する福祉用具も縮小するようなことがあれば、よりいっそう地域における自立した生活からはかけ離れた、介護の重度化を招くことが容易に想像されます。
昨年4月から要支援者について一部のサービスは総合支援事業へ移行されたばかりであり、ましてやいまだに開始していない自治体も多い中、2年後の見直しで果たして要介護2以下の方のソーシャルサービスとして、総合支援事業が受け皿となりえるのか?ますます地域格差が拡大するのではないか?さまざまな問題が介在することは明白であります。
アビリティーズは心身に障害のある方たちが、容易に自立できない社会の状況の中で、憲法に定められた基本的人権を確保し、医療、教育、雇用・就労、社会参加など、健常者と同様、あたり前に機会を得て社会参加できるよう、「保障よりもチャンスを」と宣言し、1966年の創立以来今日まで、50年間運動を広げてまいりました。今まさに社会保障崩壊の危機が訪れようとしている中、改めて真に必要なサービスとは何かを突き詰め、社会に働きかけを行うことの重要性を訴えていきたいと思います。
【参考文献】
①財政制度分科会(平成27年10月9日開催)資料
②12月7日経済財政諮問会議(首相官邸HP)掲載内容
③12月10日シルバー産業新聞より「財務省改革案に対する厚生労働省見解」