障害者・高齢者のための総合福祉情報紙 SSKP アビリティーズ No.173 発行

2024年07月25日

法改正で、合理的配慮義務化 共生社会実現へ

伊東 弘泰氏.jpg一般社団法人 障害者の差別の禁止・解消を推進する全国ネットワーク 会長
NPO 法人 日本アビリティーズ協会 会長

伊東 弘泰

2024年4月より、改正障害者差別解消法が施行された。これにより、今まで努力義務であった民間事業者による合理的配慮提供が義務化された。各事業者は、合理的配慮の提供のためにさまざまな対応に取り組んでいるが、まだ充分ではない。共生社会の実現に向けて、一歩一歩前進していかねばならない。

※ 本稿は「SSKP アビリティーズ No.173」の1項の掲載です。すべてをご覧になるには、 日本アビリティーズ協会会員への入会 が必要です。

合理的配慮は「優遇措置」ではない

国連の障害者権利条約締結に向けた国内法整備の一環として、「障害者差別解消法」(以下、差別解消法)が施行されたのは、2016年4月だった(2013年6月制定)。施行3年後に見直しが予定されていたが、ようやく2021 年5 月に改正法が成立した。

この改正の大きなポイントは、「合理的配慮の不提供の禁止」が、民間事業者にも義務化されたことだった。 合理的配慮とは、障害のある人とない人の公平な機会を確保するために、「社会的障壁を除去するための、変更・調整・サービスの提供」などのことである。

障害のある人が障害を理由に機会を損失しているとき、機会を創出する、つまり同じスタートラインにつくために行われる調整であり、決して優遇するものではなく、人間として当然の権利なのである。しかし、障害の特性や場面に応じて異なる対応が必要であることから、多様で個別性も高く、事業者側は対応に苦慮している、あるいは対応の仕方が分からないというのが現状である。

「医学モデル」から「社会モデル」へ

差別解消法の基本理念は障害者権利条約(2006年12月国連採択)に準じているが、同条約において、障害の捉え方が大きく変わり、「医学モデル」から「社会モデル」に転換した。 障害は、身体機能など本人の問題に起因するとしていた「医学モデル」に対し、「社会モデル」は障害を生み出しているのは環境・社会側の不充分さであるという考え方である。

例えば、車いすを使用している人が外出する際、移動の不自由を感じる主な理由は、駅や公共施設、飲食店など店舗の入口などに設けられた段差であり、これを取り除けば円滑な移動が可能となる。こうした状況について、「社会モデル」では「段差という障壁が車いすの人の社会参加を排除している」と考える。

「脚が不自由」という身体的な特徴ではなく、不自由を作り出す社会の構造を社会的障壁と見なす考え方が「社会モデル」である。そして、その社会的障壁の除去をめざすことが差別解消法の基本的な考え 方であり、広く国民に浸透することが望まれる。

国連による対日審査と総括所見

障害者権利条約締結国は、条約の履行状況について定期的に委員会へ報告し、それに対して審査(建設的対話)が行われる。2014 年に締約した日本の初めての審査(対日審査) は2022年8月に行われ、9月に総括所見(勧告)が出された。 

総括所見では、民間企業への合理的配慮義務付けを評価する一方、インクルーシブ教育の推進や、精神科への強制入院を認めている法令の廃止などを、改善すべき点として挙げており、次回2028 年の審査までに対応が求められる。

スイス・ジュネーブで行われた対日審査には、日本から約100 名の傍聴団が参加し、ALS で人工呼吸器を装着している舩後靖彦参議院議員もその一員であった。その時の様子を舩後議員よりレポートいただいたので次頁にて紹介する。

すべての国民のために

社会は、多数派(健常者)にとって生活しやすい構造が構築され、少数派(障害のある人)にとっては生活のしづらさがあることが多い。しかし、高齢化が進む日本社会にとって、誰もが高齢になることを考えると、障害を生み出す社会的障壁を取り除けば、誰もが暮らしやすい社会になる。差別解消法の理念が浸透したとき、真の共生社会が実現すると期待される。

 

※「合理的配慮」の具体例は、内閣府ホームページに掲載されており、「障害の種別」と「生活の場面」のそれぞれから検索できるようになっています。  合理的配慮等具体例データ集(合理的配慮サーチ)


SSKP アビリティーズ No.173 の目次

  • 舩後靖彦参議院議員手記
    「障害者権利条約の総括所見を受けて、今後どう取り組んでいくか」
  • 法理念の理解のために 各地で研修実施
  • 自分の手で投票用紙に記入を ー厚木市選管の合理的配慮ー
  • 会話に困難がある人への配慮に「コミュニケーション絵本」
  • 障害のある方の声に耳を傾け、あらゆるお客様が集う広場づくりを  ー京王プラザホテルの取り組みー
  • いくつになっても、障害が合っても スポーツを楽しもう!
  • 旅は最高のリハビリ!!(ツアー再開報告)
  • Q300ミニ ユーザーレポート(高尾洋之様)
  • 商品紹介(マジック360、Q300ミニ、Q50Rカーボン、エックスシートクッション)
  • 介護保険の適切な利用のしかた
  • アビリティーズの福祉・医療相談室(相談事例)
  • 特別寄稿「トルコでよく耳にする言葉“独りにしない”」
  • 賛助会員紹介((株)本郷いわしや)
  • 特別寄稿「障害があっても、私の人生は充実しています」
  • 書籍紹介『抜け殻仮説への挑戦』
  • 神奈川工科大学「地域連携・貢献センター」紹介
  • 高齢者運転免許自主返納へのさまざまな支援(コンパ紹介)
  • 日本重複障害教育研究会の活動
  • 福祉用具プランナー認定講習 受講者募集中
  • 気まま館紹介

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*本⽂書に記載している情報は、発表⽇時点のものです。

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