高齢者の入浴
事故が起こらない浴室にするにはどこを見直せばよいのだろうか。バリアフリー住宅の施工・設計や福祉用具の販売・レンタルを手がける「アビリティーズ・ケアネット」(東京都渋谷区)のバリアフリー推進部、末永浩一さんと曽根原宏治さんが、実際に手がけた図面をもとに解説してくれた。
リフォームの最初のポイントは、浴室の入り口だ。浴室の内側に開くドアは、入浴中に浴室内で人が倒れた場合、体が邪魔で外から開かなくなる恐れがある。取り換える場合は中折れ戸がおすすめという。ドアを開ける時にスペースも取らず、救助する際にもドアごと取り外せるタイプが多いためだ。(写真1)
脱衣所に水が漏れないよう浴室の床が一段低くなっている場合は、入り口に段差があり転倒リスクが高い。セメントと砂で床面を高くして段差をなくし、床材の張り替えも検討する。入り口の段差をなくせば、車いす生活になっても入浴用車いす(シャワーキャリー)の利用が可能になる。床材を滑りにくい素材や冷たさを感じにくい素材に変えることも事故の予防になる。(写真2)
古い浴槽は高さが洗い場から60cm以上あるような深いタイプもあり、足腰が弱るとまたいで出たり入ったりするのは大変になる。膝に集荷がかかったり、またぐ際にバランスを崩しやすくなったりするので注意したい。曽根原さんによると、浅型の浴槽への変更は、浴槽の種類にもよるが施工費込みで10万~30万円程度で可能だという。(写真3)
福祉用具使う前提
末永さんは「リフォームの際は、将来的に福祉用具を使うことも念頭に置いて」と語る。入浴中の動作を補助する福祉用臭を使うと動作が楽になる。立ったりしゃがんだりすることが負担になれば、入浴専用の介護用のいすに座って体を洗うとよい。その際、いすに座って使いやすいように洗い場の蛇口の位置を高くすると便利だ。浴槽の周囲に手すりを付けるとスムーズに動けて、転倒防止になる。手すりは棒形だけでなくL字形もあり、施工費も含め1本1万~3万円程度で取り付けられるという。(写真3)
こうした福祉用具は浴槽内に段差があったり、浴槽の材質の強度が足りなかったりすると、使えないことがある。シンプルなデザインで強度のある浴槽の方が、将来的に福祉用具を導入しやすい。
リフォームで最も気をつけてたいのは、浴室を使う人の動線や身体状況を、十分に聞き取ってくれる設計・施工業者に頼むことだ。末永さんは「手すりの位置一つとっても、人によって必要な場所や形、高さが達う。使う人の身長によって浴槽にも適したサイズがある。画一的なリフォームではなく、一人一人のニーズをくみ取ることができる業者を探してほしい」と強調する。
アビリティーズ・ケアネットが手がけた事例では、計5ヶ所の手すりの設置や床のかさ上げと張り替え、扉や浴槽の取り換え、蛇口の取り換えと高さ変更の一連で、施工質や浴槽の値段を含めて合計の費用は約70万円。工事にかかる日数は3、4日だったという。曽根原さんは「床のかさ上げなどは戸建てでも集合住宅でも可能。脱衣所に水が出ると階下への水漏れにつながるので、浴室出入り口に排水溝を設けた方がよい」と話す。
写真1 浴室の出入りドアの改修
左は改修後。ドアを中折れ戸にし、ドアを開ける時にスペースも取らず救助する際にもドアごと取り外せる。入り口には握りやすい手すりも付けました。
右は改修前。内に開くドアで、浴室内で人が倒れた場合、体が邪魔で外から開かなくなる恐れがある。
写真2 出入り口の段差解消
左は改修後。浴室床面を高くして段差をなくすると共に、床材も滑りにくい素材に変更し、転倒の危険を抑えました。
右は改修前。出入口に10cmの段差があり、滑りやすいタイル床面で転倒の危険がありました。
写真3 浴槽の改修と手すりの設置
左は改修後。浅く低い縁で浴槽に替え出入りが容易になりました。また、L字形手すりで立ち座りが容易で安全になりました。蛇口はレバー式に替えました。
右は改修前。深くて高い縁の浴槽は跨ぐ動作が大変です。滑りやすい浴槽では立ち座り時には転倒の危険がありました。蛇口も旧式で捻る操作が困難です。
この記事は、毎日新聞社様がバリアフリー推進部の末永浩一と曽根原宏治をインタビューしたものです。
2019年3月17日(日)≪くらしナビ ライフスタイル Second Stage≫に掲載されたもので、掲載は毎日新聞の了解を得ています。